日本の外食産業のサスティナビリティ への取り組みは、進んでいるといえるだろうか。CSR活動や環境保護の取り組みなど、個別課題には対応していても、包括的なサスティナビリティに関する施策が不足しているケースが多く見られる。
一方で、サスティナビリティの指標となる「持続可能な開発目標(SDGs)」は、全世界的に社会に認知され企業や教育現場にも浸透し始めている。外食産業にもその波は押し寄せており、サスティナビリティのグローバル基準が策定され、それを指針とする活動が主流になりつつある。世界では今何が起きているのか、最新動向を探る。
消費の現場を司る外食産業は、サステナビリティの文脈において3つのリーダーシップを担っている。
一つ目は、消費者に対して知識や食材の背景を開示して消費の場面を活用して教育、啓蒙を行うリーダーシップ。
二つ目はサプライチェーンの頂点として生産者から物流までの選定者としてのリーダーシップ。
そして三つ目は地域や社会のコミュニティとしての場を提供し続けるリーダーシップである。
飲食店、レストラン、居酒屋、ファストフード店、カフェ、旅館、ホテル、バーなど全ての外食産業の業態が、世界課題の解決の中で大きなリーダーシップを担うことができるのだ。
3つのリーダシップに伴って活動するべき内容は、多岐にわたる。人の健康や土壌負荷を抑えた野菜作りやアニマルウェルフェアに配慮した食肉の生産などは、トップシェフや地方のレストランからの取り組みが年々広がっている。一方で、原材料調達においてサプライチェーン全体で児童労働や現代奴隷労働がされていないかなど、人や社会面での配慮も欠かせなくなってきた。どちらか偏ることなく、環境面も社会面も、包括的にカバーすることが必要である。リーダーシップには責任も伴うのだ。
外食産業関連で最大規模の組織である「ジェフ日本フードサービス協会」では、サスティナビリティという表現ではないにせよ、外食産業における環境・社会影響に関する項目が言及されている。環境影響においては食品リサイクルの実施、雇用問題においては雇用保険問題、外国人雇用へ対する理解促進など、協会としての啓発活動を行っている。
協会以外にも、「シェフズ・フォー・ザ・ブルー」という海洋資源問題に焦点を当てたシェフたちの活動や、数名で集まったイニシアティブ的な動きがあり、それぞれ精力的に課題に取り組んでいる。また、今年11月には、環境NGOのWWFジャパンを始め持続可能な海洋資源の活用を推進する各団体・企業が主催がする「ジャパン・サステナブルシーフード・アワード」の第一回目が開催される。このように、海洋資源の分野においては課題に正面から取り組む活動が活発化している。
一方で、社会課題を含む包括的な視点に基づく活動や基準は、日本国内にはまだ普及していないのが現状だ。
イギリスでは「サステナブルレストラン協会(SRA)」が設立され、ヨーロッパだけでなくアジアでも広がりを見せている。SRAはレストランの社会的接点をグローバル基準で測ることで、統一的な監査基準を設定することに成功した。SRAの評価項目は、外食産業や飲食店における社会との接点を網羅的に捉えている。2015年国連で採択されたSDGsの各目標を通して見てみると、複数の目標に該当していることがわかる(下図参照)。
この評価基準の特徴は、どこから始めるべきかわかりづらい取り組みに対し、どのように最初の一歩を踏み出すべきか示しているところだ。以下、調達、社会、環境の項目に分けて、SRAの評価基準である10項目を紹介する。
○調達に関する基準
1. 地産地消、旬の食材の使用
2. 環境負荷の少ない野菜と肉の使用
3. 責任ある海洋資源の利用
4. 輸入品を通じた農家やサプライヤーへの配慮
○社会に関する基準
5. 従業員の公平な評価・処遇をする
6. 地域コミュニティへのサポート
7. 食育や健康的な食事の提供
○環境に関する基準
8. エネルギー資源の有効利用
9. 廃棄物管理(削減・再使用・リサイクル)
10. 食品廃棄ゼロ
このように、調達・社会・環境に関する課題をさらに小項目に落としてチェックすることができる。飲食店の社会との接点がいかに幅広いかがわかるだろう。
レストランや企業が一度レーティングを行うと、どの程度のレベルに達しているかを自分で確認することができる。セルフチェックを行うことで、自身の強みと弱みが理解でき、PR・IRの材料を得ることができるのはもちろん、環境や社会に配慮した取り組みを行うためのチェックリストとしても大いに活用することができるのだ。
(画像出典: "Our Impact", Food Made Good)
すでに「世界のベストレストラン50(The World's Best 50)」ではSRAの基準を用いてサステナブルレストラン賞が設定されている。サスティナビリティの社会における重要性の高まりを鑑みると、この基準はレストランの自己監査にとどまらず、外食事業を行う企業はもとより、食関連業界の企業の上場時の審査項目の一つにもなっても不思議ではない。
(画像出典: The World's Best 50)
いまやレストランにとって「おいしい、楽しい」は当然であり、それだけではなくサスティナビリティへの理解と取り組みを深めることが求められてきている。サスティナビリティという視点を手に入れた時、眼前にいくつものチャレンジとチャンスが横たわっていることに気づくだろう。
国際社会で多くの観光客が日本に押し寄せている時代に日本だけの独自基準、あるいは自社独自の基準を公表しても、世界標準やグローバルの基準と乖離してしまっていれば元も子もない。ガラパゴス的な狭い視野でいくら施策を打っても、グローバル化する社会では通用しないケースが多い。和食のみならず日本の外食の業界は、海外への波及力をもつグローバルな基準を採用し、地域に根差した行動をとり続けることが求められている。
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