よく知られているマニフェスト(manifesto)という言葉が意味するのは、「宣言(書)・声明(書)」という意味の外来語。イタリア語が由来でラテン諸国の言語で用いられています。こちらは選挙の際に政党が掲げる政権公約という意味で使われ、平成15(2003)年の新語・流行語大賞受賞したのでおなじみです。
一方、マニフェスト制度の「マニフェスト(manifest)」は英語で、船舶やトラックなどで運搬される「積荷目録」のことを言います。産業廃棄物におけるマニフェストは両方の意味を含んでいるように感じてしまいますが、「産業廃棄物管理票」を意味するものであることをまず理解しておきましょう。
「マニフェスト制度」とはどういったものなのでしょうか。
排出事業者は自らの責任において産業廃棄物を適正に処理することが義務付けられてます。そのため、収集運搬業者や処分会社など第三者にその処理を委託する場合、処理が完了するまでの一連の流れについて詳細に記録した「マニフェスト(産業廃棄物管理票)」を交付して把握する必要があるのです。このマニフェストの発行・回収・照合・保存を義務付けているのがマニフェスト制度ということになります。
マニフェスト制度は平成2(1990)年に当時の厚生省による行政指導でスタートしました。現在は環境省の管轄となっています。最初に義務付けられたのは平成5(1993)年4月。産業廃棄物の中で、爆発性、毒性、感染性などの危険性を伴う「特別管理産業廃棄物」の処理を業者などに委託するケースでした。
適用範囲がすべての産業廃棄物に拡大されたのは平成10(1998)年12月のこと。これまで複写式の紙による「紙マニフェスト」だけだった様式に加えて、電子情報やネットワークを活用する「電子マニフェスト」が導入され、発行・回収・照合・保存における手間が省けるようになりました。さらに、産業廃棄物に関する排出事業者責任の強化が行われた平成13(2001)年4月には、中間処理後の最終処分までが義務付けられるようになっています。
マニフェスト制度の最大の目的は、「不法投棄を未然に防ぐ」ということです。廃棄物を処理するということは事業を営む上で後ろ向きな行為と捉えられがちでしょう。特に産業廃棄物の処理は時間と手間とコストがかかります。だからといって放置していては不法投棄が増えるばかりです。
その不法投棄をなくすために徹底してやらなければならないことが「管理」。排出事業者の責任をはっきりさせておくためには、面倒な手続きではあるけれども細かく管理することを続けていかなければなりません。2018年はこの制度が法によって義務付けられてから30年。まだまだ不法投棄は後を絶たないのが現状のようですが、マニフェスト制度は確実に抑止力となって、悪質業者の検挙数アップや不法投棄の減量という形で効果をあげています。
マニフェストは排出事業者が処理終了をしたことを確認する証明書のようなものです。処理が適正に行われなかったことが発覚した際のことを想定して、事業者には5年間マニフェストを保存することが義務付けられています。
マニフェストには主に産業廃棄物の名称・運搬業者名・処分業者名・取扱い上の注意事項などが記入されます。7枚複写の紙マニフェストの場合、これが産業廃棄物と共に収集運搬業者・中間処理業者・最終処分業者へと渡って、それぞれの業者から処理が完了すれば控えが返送されて来ます。
電子マニフェストの場合は、マニフェスト情報の保存と管理を行う「情報処理センター」が一元で管理するため、それぞれの業者がセンターに対して報告を行い、センターから排出業者に処分が終了した旨の通知が帰ってくるシステムになっています。
マニフェストの法定記入事項マニフェストとは、マニフェストに記入すべき法で決められた事項です。
排出事業所の担当者はマニフェストA票に以下の項目を書かなければなりません。
・交付年月日 交付番号
・担当者の氏名
・排出事業者の氏名または名称・住所
・排出する事業場の名称・住所
・産業廃棄物の種類・数量・荷姿
・石綿含有廃棄物が含まれる場合はその量
・最終処分を行う場所の所在地
・運搬を受託した者の氏名または名称・住所
・運搬先事業場の名称・所在地 積替え保管を行う場合はその所在地
マニフェスト運用の詳細は、過去の記事でも紹介していますので是非ご確認ください。
・ 「マニフェストの基本〜流れと記載事項のまとめ」
・ 「排出事業者が知っておくべき「マニフェスト」の仕組み」
(画像出典:秋田県庁)
具体的な記入方法を見ていきましょう。
行政でも紹介されている標準マニフェストの記入方法をまとめました。
①交付年月日欄
1 廃棄物を運搬受託者もしくは処分受託者に引渡す日付を記入します。
2 交付担当者欄には、管理票の交付担当者が署名し、必要に応じて押印します。
3 整理番号欄には、必要に応じて事業者がマニフェストを管理する整理番号を記入します。
②事業者(排出者)欄
排出事業者の氏名、住所、電話番号、事業場の名称等を記入します。なお、事業場とは廃棄物を排出する場所になります。
③産業廃棄物欄
1 産業廃棄物の種類欄に、当てはまるものに(V)印のチェックを入れます。
2 数量及び単位欄には廃棄物の重量または体積を単位とともに記入します。
3 荷姿欄にはバラ、ドラム缶、荷姿及びその個数を記入します。
4 有害物質等欄に有害物質名を記入し、備考・通信欄には取扱い注意事項を記入します。
④中間処理産業廃棄物欄
中間処理業者が、その処理残渣を委託処理する際に記入する欄であり、それ以外は記入不要です(二次マニフェストの場合に使用)。
中間処理残渣の由来する、もとの廃棄物のマニフェストの交付者氏名または名称及び交付番号を記入します。
⑤最終処分の場所欄
廃棄物またはそれを中間処理して発生する残渣を最終処分する場所を記入します。
⑥運搬受託者欄
1 廃棄物の運搬を実施する収集運搬業者の氏名または名称、住所及び電話番号を記入します。
2 運搬先の事業場欄には、処理施設の名称、所在地及び電話番号を記入します。
⑦処分受託者欄
廃棄物の処分を行う処分業者の氏名または名称、住所及び電話番号、処分を行う事業場の名称、所在地及び電話番号を記入します。
(出典:秋田県庁, 「マニフェスト(産業廃棄物管理票)の記載方法」, 2005年)
①マニフェスト作成の社内ルールを決めておく
産業廃棄物を排出する事業者にとっては、マニフェストの作成はとても神経を使います。
排出する産業廃棄物の種類・数量・荷姿がだいたい一定で収集運搬業者・処分業者がほぼ固定されていれば、
あらかじめ社内で記入ルールを決めておき、その流れに沿ってマニフェストを作成していけばよいかもしれません。
②記入漏れがないかしっかり確認する
シンプルな記入ルールで全て対応できるのであればよいのですが、
不規則にさまざまな種類の廃棄物が発生する場合、その管理はたいへん煩雑な業務となります。
仮にうっかりしたミスでも、マニフェストを交付せずに処理を行った、誤った記載をしてしまった、適正に管理票の控えを保存しなかった、
遅延などが原因で確認が漏れた、廃棄物の不適正な処理があったなど、不測の事態が発生する可能性があります。
その場合は、義務違反として都道府県や政令市などから措置命令を受けることがあるので注意が必要です。
③複数の担当者で管理する
マニフェストの作成や管理は複雑な業務であるため、担当者にもしものことがあった際にすぐに引き継げるような業務ではありません。
そのため、複数の従業員が作成・管理にあたることが望ましいでしょう。
ただし、こうした業務は重い負担となってしまいます。電子マニフェストを導入しても一部の作業が簡略化するだけ、といった声もあります。
そこで、産業廃棄物のマニフェスト管理業務を外部に委託するという方法もあります。
煩雑な業務にお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
産業廃棄物の処理には日数制限が設けられており、例えば、中間処理経由で最終処理された場合、マニフェスト交付後180日以内に排出業者が処理を確認しなければなりません。もし期限が過ぎても処理業者から報告がなかったら、排出業者には委託した産業廃棄物の処理状況を把握した上で適切な措置を講じ、さらにその旨を都道府県などに報告する義務があります。
さらに、マニフェストを交付せずに処理を行う、虚偽を記載する、適正に保存しない、遅延などの確認漏れ、廃棄物の不適正な処理などといった義務違反については、都道府県などから措置命令を受けることがあります。従わない場合には「5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはこの併科」とされ、悪質な場合は刑事罰に処せられることがあることを覚えておきましょう。
事業を行う上で生産性がないようにも思えてしまう業務ですが、産業廃棄物の不法投棄を限りなくゼロに近づけていくための、企業にとって必要な社会活動です。正確に交わされるマニフェストが不法投棄を監視してくれることを忘れないようにしましょう。
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